
農薬に頼らない防除法<野菜>
栽培の準備段階からできる防除法
野菜栽培の準備段階から、病害虫被害を少なくする予防法です。
以下の方法の組み合わせで、病原菌や害虫の密度を害虫の密度を低下させ、病害虫の発生を少なくすることができます。
【土づくり】
作物がすくすくと育つための土壌には、軟らかい土と適度な養分、水分、空気が必要です。土づくりには、完熟堆肥などの有機物を、年間1a(100㎡)当たり200kg施用しましょう。
【適地適作】
<圃場条件(排水性、日当たりなど)に応じた作物選定>
・排水の悪い圃場では、軟腐病や根こぶ病などの病気が多く発生します。
・日当たりが悪いと病気(灰色かび病など)が発生します。
・圃場内の排水が悪い場所には、サトイモのような過湿に強い作物を栽培します。
<地域の気象に応じた栽培時期>
・無理な栽培(秋まき野菜の早まきなど)は、害虫の被害を多くします。例えば、秋まきダイコンの早まき、ハクサイやキャベツを早植えすると、ハイマダラノメイガの多発時と重なり、被害が大きくなります。
【作物の輪作】
同じ圃場で同じ作物を長年栽培すると、圃場内の病原菌や害虫の密度を高め、被害を増大させます。そこで、種類(科名)の異なる作物を組み合わせて数年間隔の輪作を行うことで、病害虫被害の増加を防ぐことができます。
<連作障害の出にくい野菜と野菜の輪作年限>
連作障害の出にくい野菜:カボチャ・カンショ・タマネギ・ニンジン
1年間休んだ方がよい野菜:カブ・ホウレンソウ・ミツバ
2年間休んだ方がよい野菜:インゲン・キュウリ・キャベツ・ハクサイ・バレイショ・レタス
3~4年間休んだ方がよい野菜:カリフラワー・トウガラシ類・トマト・ナス・ピーマン・メロン
4~5年間休んだ方がよい野菜:エンドウ・ゴボウ・サトイモ・スイカ
◆前作にイネ科作物を栽培すると、ネコブセンチュウ・苗立枯病・根腐病・萎凋病・つる割病・萎黄病が減少します。
◆連作すると、害虫ではキスジノミハムシ・ウリバエ・アザミウマ類・ネコブセンチュウなど、病気ではナス科の青枯れ病・ハクサイなどの軟腐病・キャベツなどの菌核病の発生が増加します。
◆ナス・トマト・ジャガイモ・トウガラシ類・ピーマンなどナス科の野菜は連作を嫌います。
【周辺の雑草防除】
圃場周りの雑草を取り除くことによって、アブラムシやアザミウマ、コナジラミなどの害虫被害を少なくすることができます。ハウス栽培でも、ハウス間の通路など周辺にマルチやシートを張って、雑草を少なくし、害虫が発生しにくい環境づくりが大切です。
【抵抗性品種や接木苗の利用】
種子や苗を購入する際、問題となる病害虫の抵抗性を持つ品種や台木に接木した苗を選定すると、発生が少なくなります。
①抵抗性品種例
作物名 | 病名 | 品種名 |
ハクサイ | 根こぶ病 | 新黄65・きらぼし90・黄楽 |
キャベツ | 萎黄病 | 彩里・彩ひかり・彩音 |
ホウレンソウ | べと病 | トリトン・パスワード7・クロノス |
トマト | 葉かび病 | CF桃太郎ヨーク・CF桃太郎ファイト・甘太郎Jr |
ウイルス病 | 桃太郎ファイト・桃太郎T93 | |
ネコブセンチュウ | 桃太郎ファイト・桃太郎8 | |
黄化葉巻病 | 桃太郎ピース・TYみそら86 | |
ピーマン | ウイルス病 | ベルマサリ・京鈴・京まつり |
ダイコン | 萎黄病 | トップランナー・つや風・藤風 |
②接木苗の利用例
作物名 | 病名 | 品種名 |
ナス | 青枯病 | 赤ナス・トルバム・ビガー・台太郎 |
トマト | 萎凋病 | Bバリア・ボランチ・グリーンガード・グリーンセーブ |
青枯病 | Bバリア・がんばる根・ボランチ・グリーンガード | |
ピーマン | 疫病 | ベルホマレ・バギー |
キュウリ | つる割病 | キング輝虎・ときわパワーZ2 |
スイカ | つる割病 | 鉄かぶと・金剛・FRきずな |
メロン | つる割病 | ダブルガード |
【病気や害虫の被害株や残さの除去】
病気や害虫が発生した株は、必ず圃場外に持ち出して処分します。そのまま圃場に放置すると次の栽培の伝染源になるので、圃場の外へ持ち出したあとは、フィルムで被覆する、土中に埋める、焼却するなどの処理をします。
【太陽熱消毒で病原菌や害虫、雑草種子密度を低下】
高温期(7月下旬~8月中旬)には、太陽熱を利用した土壌消毒によって、病原菌や害虫、雑草種子密度を下げることができます。
<ハウス>
①施肥後、畝を立てます。
②十分にかん水します。
③透明のビニールを全面被覆し、ハウスを閉め切ります。その際、ハウス内の機器や資材など高温によって変質するものは取り外してハウスの外に出します。
④20日程度で効果が得られます。
⑤消毒後に、ハウスの換気やビニール除去を行い、温度が低下してから、は種や植え付けを開始します。
<露地>
①施肥後、畝を立てます。
②十分に、かん水します。
③透明のビニールを全面被覆します。また、30日以上の消毒期間を確保します。
【圃場条件に応じた畝作りと栽植密度】
<高畝栽培で排水対策を>
土壌病害が発生する最も大きな原因は、土壌中に水分が多いことにあります。排水の悪い圃場では、高畝栽培によって過湿にならないようにすることが大切です。
<疎植栽培で通風対策を>
高い湿度は、病原菌の増殖や侵入の好適条件です。株間や畝幅を広くして、風通しを良くすることが、病気の発生を抑える上で重要です。密植は多くの病気の発生を助長します。
【水田化】
水田化によるたん水処理で効果がある病害虫には、レタスやキャベツなどの菌核病、フザリウム菌による病気、ネコブセンチュウがあげられます。水稲との輪作体系を実践することが、病原菌や害虫の密度を低下させる上で大切です。
栽培期間中にできる防除法
施肥や水管理の工夫で、病害虫の発生を少なくすることができます。
【生育に応じた肥培管理】
草が樹の周りに生えていると、風通しなどが悪くなり病害の発生を助長します。また、害虫の発生源となるので、こまめに除草をおこないます。
【病害虫の発生を左右する水管理】
かん水の方法で、病害虫は増減します。各圃場での、病害虫の発生にあったかん水方法の選択が必要です。
かん水をやめ、乾燥状態になると、ハダニやアザミウマなどの害虫が発生しやすくなります。こまめに、散水することによって、小さな害虫の発生を抑えることができます。
一方、台風の後など作物に傷がついたときのかん水は、軟腐病や疫病、炭疽病、灰色カビ病などの発生を助長します。
かん水をし過ぎて過湿になると、苗立枯病などの発生を促していまいます。
過乾過湿の繰り返しは、青枯病や白絹病などの立枯れ性の病気の原因となります。
極端な乾燥は株を弱らせ、うどんこ病の発生を助長します。
栽培期間中、資材を活用した防除法
防除目的に応じて資材を活用し、病害虫や雑草を少なくできる防除法です。
コストや労力はかかりますが、比較的、安定した効果が期待できます。
【被覆資材を活用した栽培】
<雨よけ>
雨よけによって、降雨を防ぎ、病原菌の伝播・増殖・作物への侵入を抑制できます。特に、灰色かび病を抑制するためには、水滴の落下を少なくして、ハウス内の湿度上昇を防ぐことが必要です。流滴性に優れる資材により高い効果を得ることができます。露地のトマトは雨よけとポリマルチで雨水による泥はねを防ぐことができ、疫病など1次感染の予防や根腐を防止することができます。
<紫外線カットフィルム>
病気の防除(灰色かび病、ネギ・コマツナの黒斑病を減らす)に用いる資材です。昼間飛ぶ虫に対しては、サイドにも張ればハウスの中が真っ暗に見え侵入しにくくなります。また、トマトやピーマン、スイカなどでアザミウマ類が媒介する黄化えそ病や、タバココナジラミが媒介する黄化葉巻病でも、紫外線カットフィルムでハウスを被覆すると、これらのウイルスを媒介する昆虫が侵入しにくくなるので、これらの病気の発生を抑制することができます。
※侵入した虫は増えるので、虫を苗や体につけて持ち込まないようにしましょう。
※アントシアン系の色素(例:花色、ナスの果色)は発色しないので注意してください。
※メロンやイチゴの受粉昆虫のミツバチは活動しないので注意してください。
※土壌中の硝酸化成菌が増加するため、窒素の肥効が高まります。
<防虫ネット>
野菜では作物を直接覆う、1.じか掛け(べた掛け)2.トンネル掛け(うき掛け)3.ハウスのサイド張り(作物を栽培している施設を覆う、囲うなど閉鎖して使用する)などがあります。
各害虫に対する防虫ネットの侵入抑制効果
目合い | アザミウマ類 | ハモグリバエ類 | アブラムシ類 |
0.4mm | ○ | ○ | ○ |
0.8mm | ○ | ○ | △ |
1.0mm | △ | △ | × |
2.0mm | × | × | × |
4.0mm | × | × | × |
○:90%カット △:70%カット ×:10%カット |
目合い | コナガ | ヨトウムシ類 | コナジラミ類 |
0.4mm | ○ | ○ | ○ |
0.8mm | ○ | ○ | × |
1.0mm | ○ | ○ | × |
2.0mm | ○ | ○ | × |
4.0mm | × | ○ | × |
○:90%カット △:70%カット ×:10%カット |
<マルチ栽培>
・黒マルチ:地温が上がるので春・秋の栽培に有利ですが、暑すぎる夏の栽培では軟腐病が多発します。
・シルバーマルチ:アブラムシの飛来を抑制します(ピーマンのウイルス病など)。ダイコン、キュウリ、トマトなどにも利用できます。地温上昇抑制があります。ただし、虫の飛来時期を遅らせる効果がありますが、野菜が大きく育った段階においては、寒冷紗を被覆したり薬剤散布を行って、アブラムシを防除しなければならないことがあります。
【光を利用した害虫防除】
黄色蛍光灯は、夜飛来し産卵する夜蛾類の忌避効果と行動抑制で、被害を抑えます。野菜ではオオタバコガ・ハスモンヨトウ・シロイチモジヨトウ・ハイマダラノメイガ(ダイコンシンクイムシ)などで効果が認められています。作物上で1ルクス以上の明るさが必要です。長日で抽台する、ホウレンソウなどには使用できません。
<光反射テープ・ミラーマルチ>
銀色のポリフィルムを畦にマルチングしたり、作物上に光反射テープを張ることによって、各種野菜のアブラムシ類とそれが媒介するウイルス病・アザミウマ類・コナジラミ類・ウリハムシなどの被害を抑える方法です。
【色彩を利用した害虫防除】
<黄色粘板>
黄色粘着テープにはアブラムシ、コナジラミ等が誘引されます。圃場に黄色粘着板をつるすことにより、有翅アブラムシ類、コナジラミ類が誘引され、初期侵入防止に効果があります。
<青色粘着板>
青色粘着板には、ミナミキイロアザミウマなどのアザミウマ類が誘引されます。
【フェロモンを利用した害虫防除】
性フェロモントラップで対象害虫の成虫を捕獲することで、幼虫ふ化のピークを予測し、効果的に薬剤を散布することが可能です。性フェロモントラップの設置は、街灯などの近くは避けます。
<ハスモンヨトウ>
10日あたりの誘殺数が150頭以上になると直ちに防除してください。
<シロイチモジヨトウ>
成虫捕獲ピークの約2週間後が防除適期になります。